中小企業における企業会計(会社法)と税務会計の違い
中小企業においては、税務当局への税務申告のための決算書の作成、株主総会での決算承認や取引先・金融機関への提出等のための計算書類の作成に、会計を利用しています。多くの中小企業は、主に税務申告を意識した会計を行っていますが、法人税法上の計算方法(税務会計)と会社法で求められている会計(会社法会計)には違いがあります。
今回は、それぞれの会計の概要について説明したいと思います。
※なお、有価証券報告書や有価証券届出書を作成する上場会社等は、金融商品取引法による会計も求められていますが、中小企業には適用されないため、ここでは説明しません。
1.会社法上の計算書類
日本のすべての会社(株式会社・合同会社・合名会社・合資会社)は、会社法によって計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書の作成が義務付けられています(会社法第435条第2項、第617条第2項)。
会社法会計においては、計算方法が複数あったり、貸借対照表や損益計算書等の数値だけでは情報が十分ではない項目については、別途注記表を作成する必要があります。
2.利用目的
また、会社法は、株主及び債権者保護を目的としており、作成した計算書類は、これらの利害関係者に利用されます。
3.計算方法
会社法会計では、1事業年度の損益と財産の状況を正確に計算しなければなりません。損益は、「各事業年度に属するすべての収益」から、「それに対応するすべての費用」を差し引いて計算されます。
「収益」
利害関係者保護の観点から、収益の計上は厳しくなっており、「客観性」と「確実性」がなければ計上できません。未実現の収益は原則的に収益計上できないことになっています。
「費用」
費用については、その事業年度に関連するすべての費用を計上しなければなりません。例えば、建物の修繕に関する見積費用や、賞与支払いの見積額のうち、各事業年度に帰属する分は費用計上することになります。
具体的な計算方法等については、会社計算規則に定められており、これに従って計算書類を作成することになります。また、「中小企業の会計に関する指針」「中小企業の会計に関する基本要領」が公表されており、中小企業がこれに従った計算書類を作成しても、会社法及び会社法計算規則に準拠していることになります。
1.税務申告における添付書類
法人税法上、収益事業を行う会社は、1事業年度の所得を計算し、それに対する法人税を納付する義務を負っています(法人税法第5条)。法人税申告においては、申告書以外に、以下の書類を添付する必要があります。
ここで添付される貸借対照表や損益計算書等は、株主総会等で承認を得ている必要があり(確定決算主義といいます)、計算書類と同一である必要があります。
2.利用目的
税務会計は、法人税の計算に利用され、利用者は税務当局になります。
3.計算方法
法人税の計算は、上記1.の損益計算書における当期純利益を出発点として、法人税法と会社法との規定の違いを調整して、正確な課税所得を計算します。
法人税では、損益項目を「収益」「費用」といった呼び方ではなく、「益金」「損金」といった呼び方をします。
会社法の「収益」「費用」と法人税法上の「益金」「損金」は、ほぼ似たものですが、利用目的の違いや政策等により、認識する事業年度が異なったり、そもそも法人税法上は「益金」や「損金」として取り扱うことができない項目があります。
これらの違いを、法人税申告書上で調整し、「所得」に変換した上で、納付するべき法人税額を算出するわけです。
次回は、会社法会計を正確に行うことによりどのようなメリットがあるか記事にしたいと思います。